2018年03月06日
【経営】「リクルートの すごい構“創"力」杉田浩章さん
P98
第2章ステージ2 「1→10」その1 勝ち筋を見つける
[1]メソッド(4)マネタイズ設計の3つのポイント
最大の強みはここにある
「不」を発見して描いたリボン図を、New RINGなどで集めて磨き込み、0から1を創造するのが「0→1」の段階。次に行うのは、このリボン図を使ってビジネスを設計することだ。
0から生み出した1の状態のビジネスアイデアを、どうしたら10にまで飛躍的に成長させ、事業として成立させられるか。その道筋を見極めるのが、この中で行われる「勝ち筋を見つける」というプロセスだ。私はリクルートの最大の強みは、ここにあると考えている。このためあえて本書では、「1→10」を2つのステージに分けて取り上げている。
第2章では、1から10に一気に拡大を図る前の、準備段階にフォーカスしている。
重要なキーワードの1つが「勝ち筋」だ、囲碁や将棋などでは、効果の高い打ち手について「手筋」という言い方をするようだが、リクルートではそこから派生し、筋のいい、つまり成功の可能性が高い仮説のことを「勝ち筋」と呼んでいる。特に新規事業開発においては、組織全体で収益を生み出し、勝ち続ける可能性が高い仕組みを指す。「1→10」の前半の最大の目標は、この「勝ち筋」を見つけ出し、勝ち筋に直結する「価値KPI」を発見することにある。
(中略)
ポイント(2)
「お財布」まで見えていること
2つ目は、「お財布」が明確であることだ。「誰がお金を出すか」だけでなく、「誰が、どのお財布からお金を出すか」までを突き詰める。
お金を出すのが個人であれば、これまで雑誌を買うのに使っていたお金を振り向けるか、交通費として使っていた分を振り向けるか。法人であれば、広告宣伝費か販売促進費か。これまで何に使っていた予算を、どのように削減して、新しいサービスに振り向けてくれるか、具体的なシナリオが描けるかどうかまで問う。
これまで5000円の小遣いを持ち、毎月全額使い切っていた人が、いくら良いサービス、おもしろいサービスができたからといって急に月に1万円払えるようにはならない。新しいサービスに料金を支払うためには、何かほかの支出を削ってその料金を捻出する必要があるからだ。
一般的なマーケティング調査を行っても、「お財布」までを把握することは不可能だ。回答者はトレードオフでは答えてくれないからだ。「もし○○や○○を可能にするような良い商品があれば買いますか?」という質問には「はい」と答えてしまう。しかし本当は、「その商品を入手することで、これまで支払っていた○○や○○の支出が不要になるのであれば」という条件付きの「はい」だ。
リクルートの場合は、フィジビリの段階でこうした条件についても詳細に探索する。つまり、営業担当者は企業に対し、社内の予算の組み方や意思決定の方法まで、じっくりヒアリングを行う。
それが広告宣伝に関わる新規事業であれば、現状どれくらいの予算を持っていて、それを何にどのように使っているのか、現在何に困っていてどんな不満を抱えているのかを明らかにする。そしてその不満を解消することで、どの予算をどれくらい削減でき、削減分のどれくらいをリクルートの新規サービスに振り向けようという気持ちがあるかを突き詰めるのだ。
例えば不動産や住宅の情報サービス「SUUMO」の中で、新築分譲マンションに関する対面での相談事業を行う「スーモカウンター新築マンション」の事業を準備していたときは、ターゲット企業を大手、中小などの規模でセグメント分けしたうえで、対象の物件についても、売出し初めなのか、売出し中なのかなどに細かく分けて分析した。
また、新規事業に対する予算は、広告宣伝費から出るのか、マーケティング費から出るのか。それらは現状どれくらいの金額で、どこにどれくらい支払われているのか。新規事業でどれくらいの効果が上がれば、その金額を振り向けてもらえるのか。非常にクールかつ冷静に情報を集めて分析を行った。
私自身、自動車メーカーで販売前線を担当してい時分、現場の営業マン共々、顧客の「お財布」を確認して商談を進めるのを旨としていた。
ゆえに、リクルートが「顧客の『お財布』を明確にする」のを「勝ち筋」の重点ポイントにしているのは自然かつ、特段驚かないが、単に現在の出費状況(内訳)と商品へ充当でき得る可処分費用を明確にするのではなく、充当時の出費状況、それも、現在可処分費用ではない、他の商品へ充当中の費用を振り替えていただいた出費状況まで明確にする、というのは驚いたし、成る程である。
「リクルートのすごさ」の源は、かくも顧客に踏み込み、腹を割って提案&コミットでき得る、事前の警戒心除去力、そして、最中の信頼関係構築力ではないか。
kimio_memo at 07:18│Comments(0)│
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