【洋画】「ミスター・ベースボール/Mr. Baseball」(1992)【邦画】「少年H」(2013)

2015年06月05日

【科学/マーケティング】「買いたがる脳 なぜ、『それ』を選んでしまうのか?」デイビッド・ルイスさん

P35
強烈な欲望「ウォンツニーズ」

現代のショッピングシーンにおいて「欲しい(ウォンツ)」という思いが脳から離れなくなると、ほかのことに集中できなくなり「欲しいし必要(ウォンツニーズ)」という思いに変容する。サスカチュワン大学教授ジム・プーラーは、次のように説明している。

無駄に思える買い物であっても、すべての買い物は消費者ニーズを反映したものであり、ニーズを満たすために必要不可欠な行為だといえる。たとえば若者は、単に最新ファッションが欲しいのではなく、流行の服やアクセサリーが「どうしても必要だ」と思っている。大人たちも、ただホームシアターが欲しいのではなく、友人たちが持っているから手に入れなければならないのだ。それが現代の買い物事情であり、実質的にすべてのものは、どれだけ不必要に思えても、ウォンツではなくニーズを満たすものになっている。

「ウォンツニーズ」は、強烈な欲望になり、どれだけ費用がかかっても満たされなければ気がすまなくなる。

(以下省略)


P39
ニーズを「ウォンツニーズ」へ変える

[1]のようにウォンツやニーズが低くても、マーケティングや広告戦略によって[4]のウォンツニーズへの移行は可能である。具体的な方法を6種類紹介しよう。

その1:買い物客に「作業」を与える。

(中略)

衣料品のディスカウントストアでは、顧客が掘り出し物を見つけなければならないし、値段交渉を行えば割引価格になる店もある。顧客が値引きに成功して優位性を感じるようにすれば、交渉スキルが引き立ち、購入意欲が一段と高まる。

(中略)

私たちの研究グループが、値引きしてもらった買い物客やうまく交渉すれば値引きしてもらえる買い物客にセンサーを装着して反応を調べたところ、精神と肉体の両面に覚醒が見られ、取引が終了した段階の覚醒がピークになっていた。しかも通常に買い物するよりも商品を高く評価していた。

その状況には、いわゆる「吊り橋効果」も影響しており、感情の高まりの原因を因果関係のない事象や人物だと勘違いしてしまっている。たとえば初デートでスリルのあるジェットコースターに乗ったり、ホラー映画を観たりすると、それらの経験が原因でアドレナリンが分泌しているにもかかわらず、相手の魅力によるものだと誤解する可能性がある。

バーゲン商品を見つけたときも同じである。見つけたときの興奮が大きくなれば、商品の魅力が強まる。セールやオークションで購入を競っている状況にもあてはまる心理である。

その2:希少性を作り出す

(省略)

その3:ザッツノットオール(TNA/それだけではありません)テクニック

具体的には2種類の方法があり、ひとつは通常価格が5ドルのコーヒーを3.80ドルで販売するといった値引きによるアピールである。

(中略)

もうひとつの方法は、別のアイテムの追加や大幅な値引きである。いま私の手元に好例がある。ロンドンの紳士服店の全面広告である。通常価格70-80ポンド(1万円程度)のシャルが20ポンド(3500円程度)値引きされている。だが、「広告を見た」と言えば、さらに15%値引きされる。さらにキャンペーン期間中に購入すればシルクのネクタイがもらえるのだ。

TNA(That's Not All)はさまざまな場面で用いられ、「買うか買わないか」迷っている商品を買う気にさせるのに効果的だと実証されている。

(以下省略)

その4:楽しさを演出する

人は楽しく遊んでいるとき、買い物する気分になる傾向が強い。休日に観光地やテーマパークに行くと、次々とセンスのない買い物をするのはそのためである。イタリアの哲学者のウンベルト・エーコは、ディズニーランドが「夢のファンタジックな世界にいるような気分にさせ」、園内に入ると「だまされて、買わなければならない気分になり、それも遊びだと信じ込まされる」と指摘している。

その5:気分転換に「必要なもの」にする

最近の空港は、出発する場所から買い物する場所に変わりつつある。いわば滑走路つきの巨大ショッピングゾーンを利用する乗客は、一般的な買い物客とは違い、ほかに行き場が少ないという弱みがある。しかも時間を持てあまして気晴らしを求め、緊張感をほぐしたいと思っている。その結果、時間をかけて歩き回り、出費が増えていく。購入するのは、商品というより接客であり、商品そのものと同じぐらい販売員の接客を強く求めている。

(以下省略)

その6「問題がある」と感じさせる

1920年代になると、アメリカ人の日常生活において、幸い本人は自覚していないが人間関係や仕事に支障が出かねない問題をかかえるようになる。深刻で人生を破壊しかねないので本人に打ち明けにくい個人的な問題、それは「息の臭い」である!

製薬会社のランバートは、その状況を病名のように「慢性口臭」と名づけ、リステリンを販売した。19世紀に開発された強力な外科用防腐薬であり、もともとは床のクリーナーや淋病の治療薬として販売されていた溶液である。広告では悲しそうな若い男女が、強烈な口臭が原因で恋ができないというデザインを採用した。それまでは認識されていなかった問題を顕在化させることによって、売上は7年間で11万5000ドルから800万ドル以上に跳ね上がった。



現在の消費者は毎日約4000の広告を目にしているが、その多くは個人的な問題に関するものである。太りすぎ、薄毛、にきび、しわ、体臭、ふけ、乾燥肌やオイリー肌、消化不良、胸やけ、歯の汚れで人間関係に悪影響をおよぼしかねないと警告されており、広告の商品やサービスを購入しなければ、あらゆる問題が生じるかのようだ。

歯科や外科や美容医療などを、「望まれないが必要なサービス」から「望まれるサービス」に変える方法のひとつは、外見がよくなり自信につながるための手段として売り出すことである。歯列矯正、フェイスリフトによる若返り、豊胸による女性らしさのアピール、ボトックスによるたるみの解消は、その典型事例である。

(以下省略)

「イノベーションのジレンマ」の著者、クレイトン・クリステンセンさんの説くマーケティング理論に、「片づけるべき用事」という概念がある
たしかに、私たちが有形無形を問わずモノを買うのは[何らかの用事を片づけたいから]であり、尤もに思う。
本著書のデイビッド・ルイスさんは、モノを売りたければ「ウォンツ(欲しい)」を「ウォンツニーズ(欲しいし必要)」に変えることが有効であると説き、その方法の一つに[「(現在)問題がある」と感じさせること]を挙げている。
たしかに、「問題」は正に「片づけるべき用事」であり、これまた尤もに思う。

長年モノを売ることに携わってきて今思うことの一つは、モノ売りは「躾」だ、ということだ。
なぜか。
私たちがモノを買う際、意識の有無を問わず[”その”モノを買う理由]を見つけているが、その力や根拠は、後天的かつ外的に躾けられるものだからだ。
だから、後進国より先進国の方がモノ売りが盛んであるのは、購買力が高いことに加え、躾が浸透しているからだ。
たとえば、私たち先進国人は、靴を買うのにもはや理由を自覚しないが、それは「靴を履くこと」が当たり前のこととして完全に躾けられているからであり、デイビッドさんの主張に則れば、[「靴を履かないこと(←素足で歩くこと)」に問題を感じる]よう躾けられているからだ。

極論すれば、文明の進化と文化の進化が比例関係にあるように、文明の進化とモノ売りの興隆も比例関係にある。
今、水がミネラルウォーターとして売られているのは、文明、文化が進化し、相当数の人が[「水道水を飲むこと」に問題を感じる]よう躾けられている、ということだ。

しかし、文明、文化が進化し、モノ売りが盛んになったにもかかわらず、私たち先進国人の幸福感は必ずしも高くない。
本意の有無を問わずとにかく躾けられ、より賢くなり(=問題の認識力と対処力が向上し)、より便利になり、より健やかになった・・・にもかかわらず幸福感が上昇しない・・どころか、却って減少している調べもある。
なぜか。

一因は、[「問題がある」と感じ過ぎるから]ではないか。
たとえば、美容整形は「ハマる」人が少なくないと聞くが、それは、美への飽くなき欲求に加え、一つの問題を解決したことが別の問題を提起するからだろう。
ともあれ、私たち「賢い」先進国人は、努めて一つの問題を解決するや否や別の問題を感じるよう躾けられており、「慢性疲労」ならぬ「慢性不幸」症候群の罹患者に違いない。

そもそもモノを売ることは、対象者を幸福にすることだ。
即ち、モノ売りは必要悪ではなく必要善であり、対象者に[「問題がある」と感じる]よう躾けるのは重要かつ不可欠である。
しかし、今少し舌が滑ったが(笑)、この躾が行き過ぎたモノ売りはもはや悪である。
眼前の利益や私的な事情のためだけに対象者を、ひいては、他者(ひと)を過剰に躾けるのは、モノ売りとしてもはや本末転倒であるばかりか、未来に禍根を残すゆえ、やはり自戒が必要ではないか。



買いたがる脳
デイビッド・ルイス
日本実業出版社
2014-09-26




kimio_memo at 07:02│Comments(0) 書籍 

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