【洋画】「メリンダとメリンダ/Melinda and Melinda」(2004)【邦画】「男はつらいよ 第33作 夜霧にむせぶ寅次郎」(1984)

2014年08月14日

【将棋】「オール・イン 実録・奨励会三段リーグ」天野貴元さん

P222
将棋と人生の類似性

奨励会時代、おそらく20歳を過ぎたころから、僕は週に1回くらい「プロ棋士になれない夢」を見た。

シチュエーションはいろいろあるのだが、多かったのは三段リーグの最終日。「これに勝てば自力で(プロの四段)昇段」という場面、必勝形を作りながら、まさかのトン死を食らうという、いま思い出しても胸が痛くなるような、シャレにならない夢だ。

しかし不思議なもので、奨励会を退会後はそうした夢を見ることはなくなった。夢と潜在意識の間にどういう関係があるのかは分からないが、強い強迫観念がなくなったことだけは確かだと思う。

いま思い出してみると、20歳を過ぎた頃から僕は大きな迷路に入り込んだ気がする。つまり「何のために」という意味が分からないと、物事に集中することができなくなってしまったのだ。

ちょうど同い年の友人たちが、大学を出て社会人になっていく時期を迎えていた。僕は「将棋が世の中で何の役に立つのか」という答えを求めて四苦八苦した。しかし、答えはとうとう見つけることができなかった。

(中略)

何のために将棋があるのか。それについて、僕は引き続き考える。つまり将棋の意味と魅力についてだ。

「勝つ」という責務に追われた奨励会時代、僕はそのことについて十分思いをめぐらせる余裕がなかった。いまであれば、もう少し多くのことに気付くことができそうな気がする。

「プロ棋士に成れなかったのは、そもそもなぜ将棋を指しているのか、将棋にどんな大義があるのか、途中で自分自身分からなくなり、将棋、及び、勝負に集中できなくなったからだ」。
16才にして三段まで到達するも、結局プロ棋士の四段に上がれなかった天野貴元さんのこの回顧は、考えさせられる所が多い。

とりわけ考えさせられるのは、「帰納的思考で推進した物事の挫折を演繹的思考で検証することの不毛さ」だ。

本書を読んだ限りでは、天野さんはプロ棋士に成ることを帰納的思考一本で推進し、特段ゴールセッティングしていない。
要するに、天野少年は、「好きで指している目の前の将棋をこのまま指し続けられたらいいな」との思いからプロ棋士に成ることを発想し、プロ棋士の養成所である奨励会に入会した訳だが、これは、かつてロック少年(死語?w)が、「好きで始めたエレキギターをこのまま弾き続けられたらいいな」との思いからプロのロックギタリストに成ることを発想し、「コンテスト荒らし」と化したのと基本的には変わらない。
本田圭佑選手が、小学生にして「世界的に通用するサッカー選手に成る!」と作文を介して自他に宣言し、好きで始めたサッカー人生を早い時分でゴールセッティングしたのと、思考態度が真逆だ。
予めゴールをセッティングし、そこから逆算して現在のto doを案出→実行した本田選手であれば、挫折、又は、挫折になりかねない進捗を検証する折、「そもそも世界的サッカー選手に成るのに、いかなる意義(大義)を想定していたか?」と振り返って自問自答するのは合理的であり、また、有意義でもある。
しかし、ロック少年や天野さんのように、予めゴールをセッティングしていなかった人が、物事に挫折し(かけてみ)て初めて、「そもそも自分が”その”物事のプロフェッショナルに成るのに、いかなる意義があったか?」と自問自答し出すのは不合理であり、挫折の袋小路化と自己逃避を助長するだけだ。

心理学者の高橋雅延さんのお考えによれば、人が記憶を忘却、変容させる根本理由は、人が物事(体験)の「意味付け」、「物語り」をしたがる生き物だからであり、然るに、他者に語る自分史は「物語」として合理的な(=ストーリーが合理的に繋がっている)のだという。
私たちがつい、帰納的思考の果ての挫折を「そもそも論」で検証するのは、挫折をも「物語」に、もっと言えば、「美談」にしたいからなのだろう。

記憶違いでなければ、羽生善治さんがプロ棋士を志したのは天野さんと同様、帰納的思考に因るものであり、帰納的な思考態度が誤りという訳ではない。
ただ、一つ確かなのは、帰納的な思考態度をしても、また、演繹的な思考態度をしても、私たちは挫折と無縁に成れない、ということだ。
人生の真の勝者は、挫折からの回復に長けた人、即ち、「挫折上手な人」に違いなく、私たちは先ず、挫折を不合理に検証する誘惑を断つ必要がある。







kimio_memo at 07:16│Comments(0) 書籍 

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