2014年06月02日
【営業】「営業は断られた時から始まる」E・G・レターマンさん
P139
10 惰性を克服しなさい
営業の敵は、競争ではなく惰性である。
見込客を顧客に変えるのはセールスマンの仕事であるが、その中でもっとも重要な仕事は、まず「動作」が存在しないところに「動作」を促し、その促された動作がよい方向に向いた時に、力を与えることであると、私はいいたい。
(中略)
静止中の物体が動きだすには、エネルギーが必要である、と科学は教えている。ある一定の進路を進行中の物体が、その進路を変えるにも、またエネルギーを必要とする。言葉を換えていうと、静止中の物体は、そのまま静止を続けようとする傾向があり、また一定の方向に向かって進行中の物体は、そのまま進行を続けようとする傾向がある。この傾向を惰性という。
また活動力のないものに活動力を与えるには、比較的大きな力が必要であることをわれわれは知っている。この自明の単純な原理を、セールスマンと顧客との日常関係にどのように応用したらよいか考えてみよう。
営業の仕事でもっともおろそかにできない敵は、競争ではなく惰性である。競争は大切である。なんといっても、営業戦線上、身近にいる敵は惰性である。この敵は二つに区分できる。すなわちセールスマン自身が惰性のとりこになっているか、あるいは顧客がますます惰性のとりこになっていくのに、セールスマンが手をこまねていて傍観しているかのいずれかである。
(中略)
名選手ハンク・グリーンバーグが放った一言
(中略)
営業の面談中に、話が行き詰まって、一見どうにもならない羽目に陥る場合がある。よく検討してみると、事実、その困難は表面だけにすぎないのだが、話がいったん停頓すると、話を戻して軌道に乗せるのがむずかしくなる。とかく、こうした状態は、成約が間近に迫っている際に起こりやすい。
(中略)
いまさら、野球選手としてハンクの技量をうんぬんする必要はなかったが、年俸の点で、ハンクとしては希望を述べ、承諾を得るために交渉しなければならなかったわけである。だが、この点で双方の話に食い違いが起こり、交渉は一時暗礁に乗り上げた形となった。
(中略)
この時交渉を有利に転換させようと思った(デトロイト・タイガースの社長のウォルター・O)ブリッグスは、何気ないふうを装って、ハンクの年齢をたずねた。すると、ハンクは「26です」と答えた。
「26歳だって?」ブリッグスは、あたかも自分の耳を疑ったかのような振りをして、「ほう、ずいぶんお若いじゃありませんか。私があなたの歳には、週給20ドルしかもらっていませんでしたよ・・・」といった。
すると、ハンクはすかさず、「そうでしょう。でも、ブリッグスさん、私はあなたの歳になった時、週給20ドルもらえたら幸福だといわねばなりません。ですから、現在私にふさわしい収入が欲しいのです」といった。
このハンクの言葉の中には、ユーモアというよりも、むしろ識見とでもいうべきものが含まれている。一つのきっかけを、彼は巧みに利用した。そして、先方の話をかわして、たちまち自分にとって有利な情勢をつくったのである。しかし、それよりもさらに重要なのは、この言葉によって、彼は商談の惰性に終止符を打ったことである。ブリッグスとの話は行き詰まっていた。だが、交渉を進行させる糸口を切り開いたのである。小さな爆発ーー心機一転させる言葉の爆弾ーーが長引いた交渉を打ちきるうえにぜひ必要だった。二人のあいだの交渉も、当事者双方ともに惰性にかかっていたからである。
私は二つの考えを持って仕事をしている。この考え方は、一見矛盾したようにみられやすい。すなわち、その一つは、人間がなにかある行動をとるには、そうさせる他からの援助を必要とするということである。もう一つは、人間はだれでも、元来、率先してやったのだと思いたがることである。この二つの要素は、なにかを売り込む場合でも存在する。したがって、これに処していくには、積極性に富み、明敏な人物を必要とするわけである。
たしかに、一旦腰を下ろすと改めて立つのが非常に億劫になるように、人は惰性の虜に成り易い。
E・G・レターマンさんは、「営業マン足る者、賢明な他者として、お客に適切なインセンティブを与え、惰性から解放し、購入に関する動作を援助して然るべきであるが、あくまで援助に留め、意思決定の功についてはお客に花を持たせなければいけない」と考え、日々の営業に励まれていたようだが、とりわけ後者のお考えは尤もだ。
営業は、お客さまを合理的に屈服させる試み、営みではなく、知見、先見の明、主体性の「捨てたものでは無さ」をお客さまに再発見、再認識していただく試み、営みなのだ。
P182
商談とは、堅い理詰めの話と、セールスマンに対する信用、セールスマンが代表する会社、商品、商標に対する信頼の念などがいっしょに組み合わされ、築きあげられて促進されるものである。理路整然とした説明を行い、セールスマンの立場を高めて、商談が運ぶのである。
しかし、理論だけでは十分とはいえない。感情は行動を促すが、理論はただ思想を刺激するだけだという考えをもって、私は常に行動してきた。財布の底をはたかせるには、感情に訴えることが必要である。なにか新しいものを所有する楽しさ、喜びは、惜しいと思う気持ちーーたとえ気前のよい人、金使いの荒い人でも、いざ小切手にサインする時か、苦労して貯めた現金や財産を手放す時に心に浮かぶ「惜しい」と思う感情より大きくなければならない。
要するに、相手の胸と心に強く訴えることである。これが長年営業の道を歩んできた私の体験から生まれたモットーの一つである。また、話はできるかぎり、愛する女性、可愛い子供の幸福と結びつけて、買い手の心に強く訴えねばならない。
「行動を促すのは理論ではなく感情であり、理論が果たすのは思想の刺激だけ」とのお考えも尤もだ。
たしかに、社長が話の上手い講師を研修会に呼び、良くできた話を何遍、何話社員に聞かせようと、それだけでは彼らの仕事ぶり、思考態度は変わらず、社内改革は見込めないが、その折、社長が現状に対する危機感を自分の言葉で切々と彼らに説き、かつ、社内改革への不追従を然るべき業績評価システムで合理的に咎める旨宣言すれば、彼らの仕事ぶり、思考態度は変わる可能性が高い。
この考えは正に普遍だ。
実際、将棋には「負けて強くなる」という言葉もあり、「負け」という合理的な結果(←将棋は完全情報ゲームであり、結果の帰趨は常に合理的)より遥かに、「負かされた・・・」という否定的な感情が精進を促し、棋力を向上させる。
本年の小学生将棋名人戦では、準決勝で惜敗した岡本詢也君が山田朋生アナから感想を訊かれ、言葉を発せず泣いていた。
岡本君にとって当時の涙と無念は、船江恒平五段の講評より遥かに精進の原動力に成るに違いない。
★追記/ご参考:本ブログ記事をリンクしたfacebook上で、友だち&デキる営業マンの北村さんから頂戴したコメントと私のレス
https://www.facebook.com/kimiohori/posts/10203995977602550?comment_id=10203997058909582&offset=0&total_comments=3&ref=notif¬if_t=feed_comment
堀 公夫(教授&羽生ヲタ)@kimiohori
おはようございます。「営業は断られた時から始まる」を読みました。「行動を促すのは理論ではなく感情であり、理論が果たすのは思想の刺激だけ」とのE・G・レターマンさんのお考えは尤もかつ普遍。実際将棋には「負けて強くなる」という言葉もある。 http://t.co/RjsiC5eaFu
2014/06/02 07:45:37
https://www.facebook.com/kimiohori/posts/10203995977602550?comment_id=10203997058909582&offset=0&total_comments=3&ref=notif¬if_t=feed_comment
kimio_memo at 07:31│Comments(0)│
│書籍