2014年04月02日
【観戦記】「第72期名人戦A級順位戦〔第42局の11▲三浦弘行九段△久保利明九段〕精魂尽き果てて」上地隆蔵さん
三浦が入玉し、勝利は決定的になった。驚異的な延命を見せていた久保も、さすがに万策尽き、▲1八歩でついに駒を投じた。
終局午前2時、総手数271手。対局開始から17時間に及ぶ死闘だった。三浦が疲労困憊の様子で、途中からかけていた眼鏡を外した。久保が高揚した気を静めるように、軽く水を口に含んだ。
「失礼しました・・・」
三浦が小声でポツリとつぶやく。勝つべくして勝たず、無為に手数をのばしてしまったことへの詫びに思えた。
「失礼しました」。
17時間に及ぶ死闘をようやく制し、押し寄せる疲労に耐えながらの三浦弘行九段のこの発言には、感心感動以外無い。
当時、三浦さんの心を埋め尽くしたのは、最終局の勝利の喜びではなく、勝利のプロセスの無念に違いない。
プロフェッショナルの極みのA級棋士として、とうに勝利していたはずの勝利をかくも長引かせてしまった自分、最適化できて然るべき勝利のプロセスを最適化できなかった自分の無様さ、不甲斐なさ、情けなさをしかと肯定、受容し、その責を果たす当座の一歩が、対局者の久保利明九段に対して、周囲の関係スタッフに対して、そして、自分に対して向けたこの発言だったに違いない。
後悔を最小化する生き方を貫徹し、棋士として、また、一人の人間として「できること」と「やるべきこと」に絶えず純粋な三浦さんのこと、私はこう信じて止まない。
更に、三浦さんは、本局の感想戦を久保さんと一時間以上行ったばかりか、その後、同日に行われた他のA級全最終局を、結果を事前に聞かず、盤に並べて確認されたという。
私は、三浦さんを敬愛して止まない。(敬礼)
★2014年4月2日付毎日新聞朝刊将棋欄
http://mainichi.jp/shimen/news/m20140402ddm010040026000c.html
http://mainichi.jp/feature/shougi/
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