2013年05月29日
【経営/人生】「イノベーション・オブ・ライフ」クレイトン・M・クリステンセンさん
P83
戦略はーー企業戦略であれ人生の戦略であれーー時間や労力、お金をどのように費やすかという、日々の無数の決定をとおして生み出される。あなたは一瞬一瞬の時間の過ごし方や、労力とお金の費やし方に関わる一つひとつの決定をとおして、自分にとって本当に大切なのはこういうことだと、公に宣言しているのだ。人生に明確な目的と戦略をもつことはたしかに大切だが、自分のもてる資源を、戦略にふさわしい方法で投資しない限り、何にもならない。結局のところ、戦略は正しく実行されなければ、ただの善意でしかないのだ。
自分が心から実行したいと思う戦略を、実際に実行しているかどうかを確かめるにはどうすればいいだろう?自分の資源が流れている場所に、つまり資源配分プロセスに目を配ろう。
ここ数年、ダイエット目的でスポーツバイク(自転車)を購入したものの、結局部屋のインテリア(笑)にしている人は少なくない。
なぜか。
予めサイクリングの労力と時間を計画的に割き、強制的に実行していないからだ。
イイ大人が太り、かつ、減量できないのは、基本、体質が筋肉比率と基礎代謝の低い肥満体質になっているからであり、軽くて速いスポーツバイクに乗り始めたからと言って、それが忽ち筋肉体質に変容するわけではない。
つまり、たしかに「スポーツバイクでのサイクリング」というダイエット戦略そのものは正しいが、筋肉体質を作り始めるまでの当分の間、殆ど成果を生まないが為、彼らは、予め必ずサイクリングにかける労力と時間を計画的に割き、雨や身内の不幸でも無い限り(笑)、強制的に実行する必要がある、ということだ。
にもかかわらず、彼らは、そもそもスポーツバイクを「ダイエットの簡単特効薬」位にしか考えておらず、計画も強制実行もしない。
ゆえに、「サイクリング開始即体重ダウン」との身勝手な予想を強烈に裏切られ、間も無く元のスポーツバイクの無い生活に逆戻りしてしまう。
そして、折角のダイエット戦略は「ただの善意」に堕し、スポーツバイクは部屋のインテリアと化してしまう。
「手持ちのリソース(時間、労力、カネ)を最も目的達成的に配分する計画(決断)とその実行があって初めて、戦略は戦略足り得る」とのクリステンセン教授のお考えは、成る程かつ尤もであり、今述べたように私生活にも十分当てはまる。
誤解を怖れずに言えば、ビジネスも私生活も主体は同じ、気まぐれで怠惰な(笑)人間であり、ビジネスの原理は私生活にも十分当てはまる。
私生活に当てはまらないビジネス原理は、それは「原理」ではなく「ただの方法論」である。
P112
だがイケアはどれともまったく異なる手法をとっている。特定の顧客や製品の特徴ではなく、顧客がときおり片づける必要が生じる「用事」を中心に構成されているのだ。
用事だって?
わたしは過去20年間に行なった自身のイノベーション研究のなかで、同僚の研究者とともに、マーケティングと製品開発に対するこの考え方を理論化して、「片づけるべき用事」と名づけた。この考え方の背景には、こんな洞察がある。製品・サービスを購入する直接の動機となるのは、実は自分の用事を片づけるために、その製品・サービスを雇いたいという思いなのだ。
どういう意味だろう?わたしたちは特定のユーザー属性に従って、人生を送るわけではない。大学在学中の18歳から35歳までの白人男性だからという理由で、特定の製品を買う人はいない。こうした属性は、たしかに特定の製品を購入する意思決定と相関性があるかもしれないが、それが何かを買う動機になることはない。むしろわたしたちは日々生活を送るなかで、ときおり片づけなくてはいけない「用事」ができ、それを何らかの方法で「片づけ」ようとする。とこかの企業がこの用事をうまく片づける製品を開発すれば、わたしたちはその製品を買って、つまり「雇って」、用事をさせる。だが、既存製品に用事をうまく片づけられるものがなければ、一般にはすでにあるものを使って何かをつくり、できるだけうまく用事を片づけようとするか、「ワークアラウンド」(次善策)を考案することが多い。わたしたちが製品を購入する動機になるのは、「自分には片づけなくてはならない用事があり、この製品があればそれを片づける助けになる」という思いだ。
私の息子のマイケルは、最近生活に生じた用事を片づけるために、イケアを雇った。
(中略)
イケアは特定の属性をもつ消費者集団に、特定の家具を販売しようとはしない。そうではなく、消費者が家族とともに新しい環境に身を落ち着けようとする際に、しょっちゅう生じる用事に焦点をあてている。明日中に新しい家の家具をそろえなくちゃ。次の日には出社するんだから。製品企業はイケアの製品を模倣できる。店舗レイアウトすら模倣できる。だがいまだ模倣されたことがないのは、イケアが製品と店舗レイアウトを統合している、その方法なのだ。
この考え抜かれた組み合わせのおかげで、顧客はすべての買い物を一度にすませられる。
(中略)
実際、イケアがこの用事をあまりにもうまく片づけるものだから、イケア製品に強烈な忠誠心をもつようになる顧客が多い。息子のマイケルも、イケアの最も熱狂的な顧客の一人だ。新しいアパートや部屋に家具を備えつける必要が生じるたびに、イケアがその用事を完璧に片づけられることを知ったからだ。マイケルは、友人や家族が同じ用事を片づける必要が生じると、なぜイケアがほかのどんな企業よりこの用事をうまく片づけられるかを、得々と話して聞かせる。
企業が人々の生活に生じる用事を理解し、その用事を完璧に片づける製品を開発し、顧客が製品を購入、利用するのに必要なその他の条件を整えれば、顧客は用事が発生するたびに、その製品を反射的に自分の生活のなかに「引き入れる」ようになる。だが企業が他社にもつくれるような製品をつくっている場合や、製品がいろんな用事を片づけはするが、どの一つもうまく片づけられない場合、顧客がその製品に愛着をもつことはまずない。それに代わる製品が発売されれば、瞬時に乗り換えるだろう。
P123
研究のきっかけとなった疑問の一つが、なぜ学習意欲のない生徒がこれほど多いのかというものだった。学校は最新技術や特殊教育、楽しみや校外学習を指導方法に取り入れるなど、さまざまな改善を図っているが、ほとんど効果があがっていないように思われる。
いったいどうなっているのだろう?答えは、生徒が生活に生じるどんな用事を片づけるために学校を雇うのかを、理解することにある。
わたしたちの導いた結論はこうだ。学校に通うことは、子どもたちが片づけようとしている用事ではない。学校は、子どもが用事を片づけるために雇う手段であって、用事そのものではない。子どもが日々片づけなくてはならない二つの基本的な用事とは、成功したという達成感を得ることと、友人をつくることだ。もちろん、これらの用事を片づけるために、学校を雇うこともできる。生徒のなかには、授業や学校のバンド、数学クラブ、バスケットボール・チームなどをとおして達成感を味わい、友人を見つける人もいる。だが学校を中退して非行集団に加わったり、車を買って乗り回したりするのも、用事を片づける手段のうちだ。用事という観点から見ると、学校がこうした用事をまったくうまく片づけていない場合が多いことが、とてもよくわかる。むしろ学校は、ほとんどの生徒が落ちこぼれと感じるようにできているのだ。
(中略)
生徒に勉強をがんばるべきだとただ言い聞かせるだけでは、学習意欲を高められるはずもない。むしろ、これらの用事ーー達成感を得ること、友人たちと一緒にものごとに取り組むことーーを片づける助けになるような体験を提供する必要がある。
生徒に日々達成感を得られるようにカリキュラムを改革した学校では、中退率が低下し、長期欠席者はほとんどいなくなった。生徒は成功するという用事に即した課題を与えられると、自ら進んで難しい教材を学ぼうとする。そうすることで、用事を片づけられるからだ。
あなたさまも、これまで(今も?w)特定の異性に激しい恋愛感情を抱いた覚えがあるに違いない。
そして、この感情を抱いたが最後、他のことが一切同時併行できなくなる「自堕落な幸福感」(笑)も抱いた覚えもあるに違いない。
「人を好きになるのに理由は無い」と人は言う。
たしかにこれは正論であり、これまで「なぜ彼(彼女)が好きなのか?」や「そして彼(彼女)とどうしたいのか?」を合理的に解説する人に会ったためしがない。
かつて太宰治さんは「恋愛は性欲の情動である」と仰り、私もこれが正解と思って憚らないが(笑)、かくも文明が進んでも正解は依然不明だ。
本件は、私たちに何を示唆しているのか。
一つは、「私たちは、日々自分の思いや行いの根本理由を自覚せずに、それらをただ具現している」ということだ。
私たちが自覚しているのは、基本、「そう思ってしまった」という事実と、「そうしたい(orそうしたくない)」という欲求だけだ。
だから、私たちは日々何らかの商品を購入しているが、その根本理由、即ち、「ニーズ」も自覚していない。
たとえば、私たちは日々昼飯を食べているが、昼飯のニーズを自覚することは殆ど無い。
当時、私たちの多くが自覚しているのは、せいぜい「早く、千円以内で空腹に対処しておかねば」という切迫した義務感だけだ。
然るに、クリステンセン教授がお考えになった「片づけるべき用事(jobs to be done)」なるマーケティング理論は、成る程であり、説得力がある。
私たちの多くが少なくない後悔を胸に、志半ばでこの世を去るのは、日々「片づけるべき用事」の対処だけで手持ちのリソースを使い果たしてしまっているせいかもしれない。
kimio_memo at 07:02│Comments(0)│
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