2013年05月09日
【経営】「稼ぎたければ、働くな。」山田昭男さん(未来工業株式会社創業者)
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そこで、私の思いつきで、(会社を)見学する(社外の)人からひとり二千円の見学料をもらうことにしたのだ。
まず、総務の人間が一時間ばかりしゃべる。その後工場を見せたり、社内を見学してもらったりして、合計三時間弱のコースだ。
見学にお金を取る会社など、ほかにはないだろう。トヨタだって、パナソニックだって、工場を見学するのはタダである。そこをあえて二千円も徴収するのだから、「これは何かあるに違いない」と、みなそう思う。期待して来るわけだ。
正直なところ、金額にして二千円に見合うだけの価値があるのか、と聞かれると、疑問である。
未来工業はプラスチックの電設資材をつくっている会社だ。工場にあるのは製品用の金型だ。こんなものはどこにでもあるから、別段珍しいわけではない。つまり、見る価値があると言えるほどのものはとりたててない。
しかし私はあえて二千円という高い見学料をとることにした。昨今、美術館へ行ってもせいぜい入場料は千五百円程度だ。少し意外に思えるくらい高い見学料にすることで、いやが上にも期待感が盛り上がる。
これが「グッチ」と同じ、”ブランド化”作戦である。最初から高い値段がついていれば、買う側も自然とそれだけの価値があると受け取ってしまう。
誤解しないでほしいが、詐欺とは違う。高い値段がついているからこそ、買う側が自ら、そのものにふさわしい価値を見出す。それだけのことである。三十万円出しても、このカバンが欲しい、と思わせられるかどうかである。
何が言いたいのかというと、商売は安売りをしてはいけない。常に、どうすれば値上げできるか、アイデアを出し続けることが大事なのだ。
成る程、たしかに、販売時の商品価値は、買い手の期待と認知で高くも低くも成る。
価格は、買い手にとっては「商品価値の期待値」と「商品価値の認知試練値」から成る「商品価値の重要評価基準」であり、売り手にとっては「営業ツール」だ。
この意味において、価格は男子のスーツと同じかもしれない。
高価格が設定された商品が、高価値を希求する”その”顧客に、”その”顧客なりに評価され、笑顔で買われていく様に、仕立ての良いスーツを身にまとった男子は、優れた知力と経済力を希求する”その”女子に、”その”女子なりに値踏みされ、笑顔でお持ち帰りされる。(笑)
当然、”その”女子からすると、”そのスーツ”男子のアバタはエクボだ。(笑)
P102
人は放っておくとすぐマイナス方向に物事を空想してしまいがちだ。
お歳暮を贈らないと、お客さんに逃げられてしまうんじゃないか、お中元を返しておかないと機嫌を損ねるんじゃないかーー。
でも、実際に逃げられた奴はいるんだろうか?お中元を贈らなかったら、つぶれたという会社はあるんだろうか?もしあったら教えてほしい。
おそらくひとつもないだろう。なぜなら、贈らなかった経験がないからだ。贈らないと客に逃げられる、と「空想」するので、みんなが贈る。誰も贈らなかった経験がないのだから、実際のところはわからない。
わからないのに、逃げられると考えるのはマイナスの空想にすぎないではないか。そんな思考にとらわれているからほとんどの会社や人間は伸びないのだ。
贈らないと、逃げられるかもしれない。これはマイナスの空想だ。
反対に、贈らなくても、絶対逃げられないと思えばいい。これがプラスの想像である。
私はよく常識と真逆のことをやる。
休みを増やしたり、タイムレコーダーを廃止したり、残業をなくしたり、福利厚生を充実させたり、給料は業績が上がる前にどんどん増やしてやったり。そのたびに経営者仲間はぶったまげて言ったものだ。
「山田さんはアメばっかりだね。ムチがないとダメなんだよ。社員になめられるよ」
私は不思議でならない。
「おまえさんは、なめられたことがあるのかい?」
そう聞いても、実際になめられたという者はひとりもいない。なめられたことがないのに、なめられるような気がして、「なめられる」と騒いでいるだけのことである。
それはマイナスの空想の固まりにすぎない。やってもいないことを、やる前からダメだと決めつけるのだ。
人は百人いれば百人、自分が経験してもいないことをマイナスに空想したがる。そしてビビッて現状に留まってしまう。
現状とは、(一年間に四千万円に満たない利益しか出していない)九十七%の会社が留まっている「儲からない状態」のことだ。能力のない人間はやたらとマイナスの空想をする。空想するから稼げなくなる。
そもそもビジネスはみな経験則でできているはずだ。経営は空想ではなく、経験に基づいて行なうものだ。だから経験そのものをたくさんすべきなのである。にもかかわらず、なぜ経験する前に空想するのだろうか。
マイナスの空想が浮かんできたら、必ず一度自分に問うてほしい。
あなたは「それ」を実際に経験したのか。
「それ」は本当に起きることなのか?
そうすれば、いかに自分がマイナスの空想にとらわれていたのかがわかるだろう。
ある時、こんな質問をする人がいた。
「マイナスの空想とリスク管理はどう違いますか?」
両者は似ているようで明らかに違う。リスクとは実際にそれが起きた実例があるものだ。つまり経験則があてはまる。
たとえば一社に売上の三十%以上を依存していると、倒産のリスクが高まる。そんな実例は山ほどある。
「売り上げが一社に集中すると、もしもの時に共倒れになるかもしれない」という危険性を見越して、得意先を増やそうとするのは、リスク管理であってマイナス思考ではない。
でも、「お中元を贈らなかったら、得意先がヘソを曲げ取引が減るかもしれない」と考えるのはマイナス思考である。実際にそれで被害が出た会社があるのかといったら、そんな例はないだろう。
ありもしないことを空想するのがマイナス思考だ。実際に起こったことを検証して、それに備えるのがリスク管理であり、プラスの想像力だ。
このふたつをはき違えている人が多いのは、何とも困ったものである。
恐縮だが、「自他の実例や経験に裏打ちされていない否定的な未来を危惧する余り、計画を断念したり、不必要な対処を事前に施すのは、単にマイナスの思考、空想であり、自他の実例や経験に裏打ちされているそれを悉く想定し、事前に相応の対策を施して計画を実行するのが、リスク管理的思考、ないし、プラスの想像力である」との山田さんのお考えは、完全には同意しかねる。
なぜなら、もし、山田さんのこのお考えが完全に正しければ、311の原発事故も空想になるからだ。
自他の実例や経験に裏打ちされていなくても、発生確率が相応に在り、かつ、損害回復コストが事前対策コストを大きく凌ぐ(→利害関係者に壊滅的ダメージを与え得る)否定的な未来を想定するのも、リスク管理的思考、ないし、プラスの想像力に含まれて然るべきだ。
とは言え、山田さんのこのお考えは、基本的には同意だ。
なぜなら、山田さんが世の97%の非儲かり企業に最も仰りたいのは、「現時点でありもしない否定的な未来を際限無く危惧する余り、現時点であり得る否定的な未来を想定(→事前対処)し損ねてしまうのは本末転倒であり、経営者はその思考回路(習性)を今すぐ改めるべきだ」ということだからだ。
山田さんのこのお考えは、将棋で喩えると、「非儲かり企業の経営者は、基本中の基本の『三手の読み』を会得、励行することを端折り、高段者気取りで『七手の読み』を試みては挫折し、結果、会社の収益は勿論、実力をも向上させられないまま、毎日を無為に過ごしているに等しい」ということだ。
史上最強棋士と称される羽生善治さんでさえ、「対局中、たしかに、何百手も読むことは読むが、実際に数手進むと必ず、先に読んだのとは全く異なる局面が出てくる(→が故に、先の読みはオールリセットし、改めてイチから読み直すことになる)」と仰っている。
非儲かり企業の経営者は、ありもしない七手先の手を読む余り、十二分にあり得る三手先の手をしかと読まない愚を速やかに改める必要がある。
kimio_memo at 07:37│Comments(0)│
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