【BSNHK】「プレミアムシアター/雨(作:井上ひさしさん)」徳(演:市川亀治郎さん)【BS12】「GUITAR STORIES 情熱のスーパーギタリスト列伝」山本恭司さん

2012年09月23日

【観戦記】「第71期名人戦A級順位戦〔第12局の1▲渡辺明竜王△橋本崇載八段〕バカバカしい」上地隆蔵さん

橋本(崇載八段)は十分にタメを作って、魅せるように△4二飛と指した。
渡辺(明竜王)の表情に変化はない。
角道を通したままの四間飛車は現代振り飛車のパイオニア・藤井(猛)九段が今夏の王位戦七番勝負で用いて再び脚光を浴びている。
橋本はいう。

「王位戦での藤井さんの序盤戦術を、一手一手自分なりに検証してみて、感銘を受けた。
やっぱりこの人は天才だ、と。
もっとも自分は角交換型四間飛車をA級で一局は指そうと思っていた。
触発されて真似したわけではない。
むしろ大舞台で先に使われて、アチャーという感じ(笑い)。
自分は居飛車と振り飛車、両刀遣いというのが強み。
相手の出方に応じて、どちらでも対応できる。
そういう技を使った序盤を、アピールしたい」

続けて、橋本はこうも言った。

「今、プロの将棋は個性がない。
みんな同じ指し方
流行を追えばそれなりに勝てるんでしょうけど、自分は意欲がわかない。
情報が勝負を決めるなんてバカバカしい。
見ているファンもつまらないと思う」

「最近、若手は横歩取りとゴキゲン中飛車ばかりだ。みんな同じ戦法ばかりやってて、何をしてるんだ」。
かつて遠山雄亮五段をこう叱った藤井猛九段は、「みんなと同じ指し方」を否定する橋本崇載八段に、称賛と同志の念をお覚えになるかもしれない。(笑)

それはそうと、なぜ、橋本さんが仰る様、棋士の多くはみな同じ指し方、戦法を採用するのか。
詰る所、「大負けする確率を最小化したいから」ではないか。
棋士の多くが今指している指し方、戦法は、彼らの間で今、「相応に指せる(=有力である)」、「結論が出ていない」と考えられているものだ。
たしかに、将棋に限らず、物事は大勢にならえば、大失敗する確率が低い。

しかし、物事を大勢にならうことには、大きなリスクが二つある。

一つは、根本思考(創造的思考)が停止するリスクだ。
物事を新規に創造できなくなることに加え、物事をゼロベースで思考できなくなる。
結果、低位のカイゼンしかできなくなる。
中長期的には、進化どころか、退化の可能性が高い。

もう一つは、アニマルスピリットが消失するリスクだ。
物事を成就する、勝負で勝利する最後の決め手はアニマルスピリットの強さだ。
大勢で群れている人間は草食人間であり、彼らのアニマルスピリットは知れている。
草食人間に微笑むほど、運命も勝利の女神もお人好しではない。

とりわけ勝負師は、天邪鬼と言われる位で丁度良いに違いない。
橋本さんが流行戦法に見向きもせず、棋士には不似合いな身なり(笑)を選好なさるのは、天邪鬼であり続けることの、勝負師であり続けることの決意と自律ではないか。



★2012年9月22日付毎日新聞朝刊将棋欄
http://mainichi.jp/feature/shougi/



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