【野球】「落合博満の超野球学〈1〉」落合博満さん【洋画】「エリン・ブロコビッチ」(2000)

2012年08月23日

【販売】「あなたから買えてよかった!」齋藤泉さん

P99
お客さまの不満というのは、だれかに話を聞いてほしい、自分がどれだけ不服を感じているかわかってほしい、どれだけひどい目にあったのかを理解してほしい・・・こういう気持ちでいらっしゃることも多いのです。

そして、振り上げたこぶしをどこで収めるか、怒っているほうもその落としどころを探りながら、という場合もあります。

お客さまに接する者が心掛けるべきは、いかに容易にお客さまがこぶしを下ろせるようにリードしていけるかでしょう。
それも接客の最前線にいる私たちが担っている1つの役割ではないかと思います。

何かのメディアで、ワタミの渡邉美樹会長が「近年、クレームの質が変容してきた」との旨仰っていた記憶があるが、齋藤泉さんが前段で仰っているのはその正体に違いない。
そう、近年のクレームの本質は、販売側の不手際への落胆ではなく、不手際により事前期待が不本意に裏切られたことへの落胆なのだ。
よって、今、販売側がクレームで何よりリカバリーしなければいけないのは、自分たちの不手際そのもの以上に、お客さまの事前期待であり、それには何より、齋藤さんが仰っているように、お客さまの事前期待とそれが不本意に裏切られたてん末を理解するプロセスが重要なのだ。

そして、今、販売側がクレームで果たすべきは、齋藤さんが仰っているように、お客さまをメンタル共々リードし、振り上げたこぶしを本意で下ろしていただくことなのだ。
クレームの本質が実利ではなくメンタルである以上、お客さまも、振り上げたこぶしは所謂合理的な対処だけでは引っ込みがつかないに違いない。


P121
自分の仕事の範囲、自分の業務の内容、そういったものに必要以上にとらわれてしまうと、それがお客さまにとってよい方向に向かわなかったり、結果的にお客さまのニーズに反してしまったりということだってあるように思います。

お客さまにとって何がよりよい行動かーーそれをサービスの原点と考えるなら、業務の範囲やマニュアルにこだわるよりも、ほかの人に協力を求めることも含めて選択肢を広げられるように、多くの選択肢の中からよりベターなものを選べるように、考え方の幅を広く持つ必要があります。

「良いサービス」とはお客さまのニーズを大局的かつ全体最適的に叶える、唯一無二の解決行動に違いない。
馬鹿には果たし得ぬ所作だ。


P140
1ヶ月前に入った新人が、今日も新幹線の中に立っています。
頭がパンクしそうになりながら、コーヒーをこぼさないように心掛けながら、一生懸命やっています。
そんな新人が仕事に慣れたとき、自分の(店と言うべき車内販売の)ワゴンに対する思い入れを抱くことができなければ、サービスの質にも影響があるのではないかと思うのです。

サービスが一流といわれている会社は、末端の社員一人ひとりにまで、会社のDNAが染み込んでいるというだけでなく、一人ひとりが自分の頭で考え、自分で判断を下して最良のサービスを模索しているという姿があると思います。

そこに人は感動し、「またあそこに行きたい」「またあのお店で買いたい」と思うのではないでしょうか。

やはり、サービスも、その他の物事と同様、感動の本質は、成果物(結果)ではなくプロセスなのだ。
お客さまが感動するのは、一個人の自分への深遠な洞察に加え、”その”成果物を最善と判断し、最高品質での創造、提供を断行した、サービスマンの矜持と実行力に違いない。


P190
私は車内販売員ですが、けっして商品を買ってくださる方だけがお客さまと思っているわけではありません。
ご乗車になるすべてのお客さまが私のお客さまです。
すべてのお客さまが、何事もなく気持ちよく過ごせる空間を作りたいと思っています。
すべてのお客さまが、「今日、新幹線に乗ってよかったな」「気分がいいな」と少しでも思ってくださるような時間にしたいと思っています。

(中略)

「新幹線に乗ってよかったね」
「新幹線に乗るって楽しいね」
一人でも多くのお客さまにそう思っていただきたい、今日もそんな思いです。

何か難しいことをやるわけではありません。
ほんの些細なことであったり、ちょっと声をかけることだったり、必要なものを必要な分、提供したり、少し荷物を差し上げたり、それだけでいいのです。
ほんの少し心掛けることです。
ほんの少し相手からヒントをいただこうと努めることです。
そして、ほんの少し勇気を持って行動することが何よりも大切です。

近年、自動車マーケットのシュリンクがいよいよ甚だしい。
しかし、もしメーカーとディーラーの従事者の多くが、齋藤さんのように、「当社の自動車に乗ってよかったね」や「当社の自動車に乗るって楽しいね」ではなく、「自動車に乗ってよかったね」や「自動車に乗るって楽しいね」とマーケット全体に不断に思いを寄せていたら、状況は違っていたのではないか。

ゼロサムゲーム的セールス・マーケティングは、選択肢(代替物)溢れる現代には不似合いだ。
セールスマン、マーケッターは、対象のマーケット、商品カテゴリーそのものを遍く不断に愛好し、その拡大と隆盛の欠片のみ有り難い成果として享受すべきなのだ。


P194
人生は有限です。
1日の時間は限られています。
私たちは、その多くを仕事に費やしています。
それは紛れもなく、私の時間です。
他人の時間でもなく、会社の時間でもなく、私が生きる時間です。

その私の時間を大切に使いたい、私の人生を充実して過ごしたい、とだれもが思うでしょう。

私のとっては、仕事の時間も私の時間です。
だから、精いっぱい楽しみたいし、心から笑って過ごしたい、そう願っています。
そして、新幹線の車内を、お客さまと「よかったね」と喜び合える場所にできれば、これほど幸せなことはありません。

かくして、齋藤さんは、自ら正社員の道を閉ざされているのではないか。
即ち、心身を会社に完全依存することで、仕事がお仕着せの、創意工夫とかけ離れたルーチンに堕してしまい、「良いサービス」を果たそうと、”その”お客さまとの一期一会に感謝と喜びを見い出すことができなくなる、と憂慮なさっているのではないか。
もし、この邪推が的外れでないなら、齋藤さんを雇用する日本レストランエンタプライズは、齋藤さん個人に加え、社内外に対し甚大な機会損失が有るに違いない。



あなたから買えてよかった!
齋藤 泉
徳間書店
2012-04-27




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