【講演】「幸せになるための道」アルフォンス・デーケンさん(上智大学名誉教授)【評伝】「瀬島龍三と宅見勝「てんのうはん」の守り人」瀬島龍三さん

2012年07月24日

【映画】「「お葬式」日記」伊丹十三さん

P286
【インタビュアー】
まずこの映画(「お葬式」)を作られたきっかけからお話しいただければと思います。

【伊丹さん】
ええ、これはね、もう百回は聞かれました(笑)。
やはりみんな、原因があって結果がある、というふうに単純化して考えたいらしいんですが、僕としては、むしろ自分のこれまでの人生のあれもこれもが、うまくこの映画に流れこんでるという感じが強いのでーー

(中略)

【インタビュアー】
この映画は、どこで輪切りにしても全部伊丹十三であるトーー

【伊丹さん】
そう。
ある意味でね。
ある意味でこの映画は僕の全人生の煮こごりのようなものではあるね。

【インタビュアー】
そういう、自分の人生の煮こごりのようなものを求めて、人は表現形式をまさぐる、そういう意味ではたしかに人生全部きっかけなんでしょうが、もう少し卑近な意味でのきっかけというのもあったわけでしょう?

【伊丹さん】
そりゃあります。
たとえば俳優というのは仕事に関していいますと、いくらいい仕事だけ選んで仕事しようと思っていても、そもそも選ぶべき仕事が充分にない状態じゃどうにもなんない。
現実には面白い脚本なんてものは一年に一本来るか来ないかですよね。
ですから、その、来るか来ないかの一本の他に、なんていいますか、脚本は駄目だけど、自分の役だけはなんとかできそうだ、というのを混ぜて、なんとか仕事を続けてゆく。

【インタビュアー】
じゃ、俳優というのは基本的には不平不満のかたまりみたいなものですか?

【伊丹さん】
そうなんです。
ただね、大の大人が来る日も来る日も、ああつまんない、なんでこんなにつまんない仕事しか来ないんだろう、面白い仕事さえ来りゃ、俺だってこんなもんじゃないんだが、なんて嘆いているのはあまりにみっともいいもんじゃない(笑)。

後悔しない人生を全うする要所は、不本意の果てに人生を潰えないことだ。
ついては、受動的ではなく、能動的な人生を選好しなければいけないし、仕事では、受注者ではなく、発注者を志向しなければいけない。

伊丹十三さんは、監督処女作品の「お葬式」を「人生の煮こごり」と表された。
たしかに、伊丹さんにとって本作品は、自他共に認める「人生の凝縮」に違いない。
しかし、伊丹さんは、本作品以前に、映画監督という仕事そのものが「人生の凝縮」であり、また、後悔しない人生を全うするための、人生最後の背水の陣だったのではないか。


P322
【インタビュアー】
では、最後に観客に対してメッセージをお願いします。

【伊丹さん】
はい。
まあ、われわれこうして映画を作ったわけですが、映画というものは半分しか作ることができないわけですね。
どんなに懸命に作っても、作り手に作れるのは半分までであって、残り半分は観客によって完成してもらうしかない。
実はこれ、サルトルが小説についていっていることなんですがね、つまり小説というものを作家は半分しか書くことはできないんだト。
残り半分を完成することは読者の配慮にゆだねるしかない。
では、どんな読者にあてて小説を書くのか、という問いに対しては、あらゆる人間がこの小説を読んだとしたら、というのが答えになろうし、では読者の何に対して書くのかというなら、それは読者の自由に対して書くのだト。
つまり保証済みの方法で、読者の鼻づらをとって引きまわし、自在に泣かせたり笑わせたりするために書くのではなく、読者の自由に対して書くのだ、というのですね。
われわれは映画を半分しか作れない
そして、残りの半分の完成を観客の配慮にゆだねるため観客の自由に対して映画を作る、ということです。
われわれの映画は、これからもさまざまな観客に出会い、各人の中でさまざまな形で完成されてゆくでしょう。
私としてはそれぞれの出会いが幸せなものであることを祈るのみです。

伊丹さんのお考えは、同感だ。
たしかに、映画や小説に限らず、不特定多数を対象とする、否、自分と異なる他者を対象とする成果物、創造物、アイデアは、悉く半分しか作れず残り半分は他者の「自由性」で完成してもらう以外無いに違いない。
そして、創造者、否、私たち全ての人間が励行すべきは、他者の「自由性」と抗うのではなく、それが自分のアイデアを見つけ、完成に加担した幸運に感謝し、高度完成を楽観する以外無いに違いない。



「お葬式」日記
伊丹 十三
文藝春秋
1985-02-25




お葬式<Blu-ray>
出演:山崎努、宮本信子
監督:伊丹十三 
東宝
2011-11-25




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