2012年06月10日
【講演】「ヤマトグループを支えるITの活用と進化」木川眞さん(ヤマトホールディングス株式会社代表取締役社長)

現在、当社は、14万人の社員で、年間21億個の荷物を送っている。
たしかに、かくなる膨大な荷物を高価値で送るには、高効率なネットワーク(配送システム)とITが不可欠だ。
しかし、当社がここまで事業を拡大できたのは、とりわけ「荷物の送り手」ではなく「荷物の受け取り手」の利便性を徹底的に追及し、「ゴルフ宅急便」、「クール宅急便」、「受け取り時間帯指定」といった新製品を不断に開発していったからだ。
これは、実際に料金をお支払いくださるのは「荷物の送り手」であり、ユニークだが、結果、「手ぶらの文化」や「産地直送の食の文化」を創造することもできた。
もとより日本は、人口の減少と市場の飽和が不可避だ。
そこで、当社は、2005年に持ち株会社へ移行し、ノンデリバリー事業への投資を可能な体制にした。
そして、以来、事業構造改革、業務基盤改革、意識改革を実行している。
事業構造改革には、たとえば「当日配送」がある。
これは、コンビニや勤務先での受け取りも可能にするなど、これまで構築したネットワークを抜本的に変える必要があったが、企業は一層の在庫削減が可能になり、一般のお客さまも満足度が向上した。
たしかに、コストはかかり、競合企業から揶揄もされた。
しかし、それらが実現できたほか、セールスドライバーも運び直しのコストを減らすことができ、当社にも利が十分にあった。
サービスレベルとコストは、必ずしもトレードオフではない。
業務基盤改革には、たとえば「業務作業の標準化」」がある。
これはとりわけベテランには不評だったが、生産性を向上させるには、新人もベテランも同様に高生産性で業務を遂行する必要があり、有効だ。
意識改革には、たとえば「褒める文化の導入」がある。
私たちのビジネスは、詰るところ人だ。
いかに高価値な製品を作っても、いかに高効率なネットワーク、ITシステムを構築しても、最後にお客さまに荷物をお届けした際に粗相があればジ・エンドだ。
つまり、いかにヤマトの社員一人一人がお客さまの前で本気で、適切に行動できるかが最重要だ、ということだ。
当社のビジネスは、もはや社会インフラでもあり、彼ら一人一人がヤマトの顔だ。
しかし、この業界には古くから「叱(って育て)る」文化が有り、社員のそうした行動を少なからず妨げていた。
そこで、私は新たに「褒める文化」を導入し、社員のそうした行動を促進、奨励している。
具体的には、「満足バンク」なるシステムをイントラに設け、社員間で褒め合い、それをポイントでストックする。
そして、私から直接ポイントの多い順に金、銀、銅メダルを授与し、褒賞している。
現在98%の社員がポイントを保有しており、進捗は悪くない。
これもITの成果だ。
ITは、「使われる」のはなく、「(使いこなして)乗り越える」べきものだ。
本講演を知ったのは勝又清和六段の告知だったが、私は、偶然数日前から、ヤマトホールディングスの祖、ヤマト運輸で社長を務め、「クロネコヤマトの宅急便」こと宅急便を創造なさった小倉昌男さんの著書「小倉昌男 経営学」を読んでいた。
本書は、「経営者小倉昌男」の秀逸な論理と高邁な矜持が満載の、本人解説による最高のケーススタディで、思考と感銘を覚える所が多々有った。
それは、本講演も同様だった。
以下の四事項は、その最たるだ。
【1】商品開発は、真の(=最優先すべき)顧客とその満足内容を正確に特定して行なわなければいけない。
木川眞社長は、「今日のヤマトの発展は、『荷物の送り手』ではなく『荷物の受け取り手』の利便性を徹底的に追及し、『ゴルフ宅急便』、『クール宅急便』、『受け取り時間帯指定』といった新商品を不断に開発していったからである」旨仰ったが、これは言うほど簡単ではない。
なぜなら、同社、並びに、同社の事業の直接の収益源、対象顧客は、「荷物の受け取り手」ではなく「荷物の送り手」であり、短期的には、「荷物の受け取り手」の利便性ではなく、「荷物の送り手」の利便性とコスト低減を優先追求した方が確実に儲かるからだ。
小倉昌男元社長は、先述の自著「小倉昌男 経営学」の中で、宅急便を開始して早々、「サービスが先、利益は後」と社内で宣言し、ヤマト運輸は、そして、ヤマト運輸の自分たちは何を志向し、そのためには何を優先(実現)すべきか、目標、戦略、戦術の具体、関係性、優先順位を、他の取締役以下全社員宛明確に周知啓蒙した旨を述懐なさっている。
ヤマト運輸、ないし、ヤマトグループの商品開発は、持続的かつ中長期的な成功と発展を最優先(希求)する機能と進捗であり、また、その論理を終生固持なさった小倉昌男元社長の遺伝に違いない。
もし、テレビや新聞などのマスメディアが、同社の商品開発の爪の垢を煎じて飲み、宅急便の誕生来、広告主の短期的収益向上ではなく、視聴者、購読者の中長期的啓蒙を優先させていれば、現在の苦境は免れていたのではないか。
【2】商品開発の真の成否は、新しい生活文化の創造の成否で決まる。
木川さんは、「『荷物の受け取り手』の利便性、満足を徹底追求した新商品を不断に創造し、『手ぶらの文化』や『産地直送の食の文化』を創造することもできた」旨仰ったが、これは同社の商品開発が真に成功した証左だ。
商品開発の眼目は、対象顧客が対価交換を希求する価値の創造だが、その真の成否は、創造した価値が対象顧客の生活を、ひいては、社会の新しい文化を創造できたか否かで決まる。
そして、だからこそ、他にはアップルなど、商品開発の優れた企業は悉く、顧客には愛され、社会には称えられる。
昨今、社会企業家(起業家)がもてはやされているが、そうした企業の経営者と社員も、十分社会企業家足り得るのではないか。
【3】コスト削減の最たるは、サービスレベルの向上である。
木川さんは、「サービスレベルとコストは、必ずしもトレードオフではない」旨仰ったが、これは、企業に限らず、政府、地方自治体など、過剰コンプライアンス(に拠るコスト高騰)が問題視される今、いよいよ尤もだ。
今、顧客は高レベルのサービスに慣れっこになっており、企業が予想する以上に失望し易い。
顧客の失望は、対象顧客から除外しない限り、補償、回復しなければいけない。
顧客の失望を回復するコストは、顧客の満足を醸成するコストの倍では済まない。
よって、企業は、顧客の失望を回復することにコストを投じるなら、予め経営に支障が無い範囲でサービスを然るべきレベルまで引き上げ、顧客の失望を抑制し、かつ、顧客の満足を、更には感動を醸成することコストを投じる方が、中長期的には有効かつ賢明だ。
「過剰サービス」と「感動サービス」は紙一重だが、「攻撃は最大の防御なり」という言葉があるように、サービスレベルの向上はコスト削減の最たるだ。
企業がコストを優先投下すべきは、優先強化すべきは、いよいよ「お客さま相談窓口」ではなく「売り場」だ。
【4】企業の生死は、「ラストワンマイル」で決まる。
木川さんは、「いかに高価値な商品を作っても、いかに高効率なネットワーク、ITシステムを構築しても、最後にお客さまに荷物をお届けした際に粗相があればジ・エンドであり、最重視すべきは、いかにヤマトの顔である社員一人一人がお客さまの前で本気で、適切に行動できるかだ」旨仰ったが、これは完全同意だ。
なぜなら、もはや今、顧客は、自分を個客として気持ち良くもてなしてくれる人と企業からしか商品を買わないからだ。
「企業がコストを優先投下、優先強化すべきは『売り場』だ」と先述したが、それは本事項にも確然と通じる。
ここで述べた「売り場」とは、「顧客との第一接点」であり、インターネットで言う「ラストワンマイル」だ。
インターネットも、いかにユーザーの周囲を高速で動いていようと、ラストワンマイルでユーザーのデバイスに容易かつ快適に繋がらなければ、同様にジ・エンドだ。
ラストワンマイルを不断に強化できない企業は、コストの増加に加え、顧客の離反も免れない。
企業の生死は、「ラストワンマイル」で決まる。
企業が生を長く保つには、小倉昌男元社長が仰っていたように、「サービスが先、利益は後」以外有り得ない。
★2012年6月7日公開シンポジウム「人とITとの共創」(於:明治大学アカデミーコモン)にて催行
※木川眞社長の言は意訳。
http://www.jasmin.jp/jp/pr/social/event/20120607/index.html














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