2012年06月03日
【観戦記】「第70期名人戦七番勝負〔第3局の15▲森内俊之名人△羽生善治王位挑戦者〕情念の戦い」甘竹潤ニさん
△5六成桂と引かれたこの局面が(森内俊之)名人にとっては緊張が最高潮に達した場面だったはずです」
島(朗)九段の言である。
次は△6七成桂の王手馬取りがある。
慎重にいくなら▲8四馬右だろう。
竜と2枚の馬が入玉ルートを作ってくれるはずだ。
だが森内は安全策を選ばなかった。
貴重な6分を費やして▲5ニ銀と攻めに出たのだ。
島「森内さんは先行き不透明な局面では、よくいわれる堅実さなどまったく感じられず、思い切りがよくなるのです」
曰く、▲5ニ銀は質駒にもなりかねず、プロ的には気が進まない銀打ちなのだという。
その危険を冒して、森内は羽生玉を詰ましにいった。
島「▲5ニ銀こそが、情念の戦いとなることが多い森内・羽生戦そのものという気がします」
ちなみに、羽生・佐藤康光戦では論理のまさる応酬が目につく。
また森内・佐藤戦は将棋がまったく異なるため、距離感のある戦いになる傾向があるという。
森内(俊之)・羽生(善治)戦は「情念の戦い」に、羽生・佐藤(康光)戦は「論理の優る/勝る応酬」に、森内・佐藤戦は「距離感のある戦い」にそれぞれ成る傾向がある、との島朗九段の分析は成る程だ。
人は、話す内容を、相手の態度に加え、資質で変える。
だから、私たちは、感情に偏りの有る人とは感情的な話に、また、理性に偏りの有る人とは理性的な話にそれぞれ成る傾向が高い。
「棋は対話(会話)」であり、相手が変われば、話す内容も、指す手も、結果も、変わって当然に違いない。
そして、羽生さんは、感情と理性が不偏向に違いない。
だから、感情に偏りの有る森内さんとも、理性に偏りの有る佐藤さんとも、数多の名局と戦績を収められているに違いない。
羽生さんの強さの一因は、感情と理性の不偏向がもたらす、他者調和力の高さに違いない。
★2012年6月2日付毎日新聞朝刊将棋欄
http://mainichi.jp/enta/shougi/