2012年02月09日
【観戦記】「第70期名人戦A級順位戦〔第35局の1▲佐藤康光九段△三浦弘行八段〕対局前のポカ」椎名龍一さん
対局開始時の15分前にゆっくりと席に着いた佐藤(康光九段)とは対照的に、三浦(弘之八段)は開始3分前にかなり慌てて入室してきた。
雪の影響で交通事情でも悪かったのかと思いきや、後で知ったのだが三浦は対局室を間違えていたのだという。
渡辺明竜王の座っている盤の前で身支度を始め、しばらくして対戦相手が渡辺ではなく佐藤であることに気付いたようだ。
対局開始前の三浦の珍しいポカだが、盤上のことばかり考えている三浦らしいうっかりという気がしないでもない。
プロ棋士は等しく「盤上没我」だが、このエピソードが改めて明らかにしたのは、三浦弘之八段のそれと没我は到底盤上に収まり切れない、ということだ。
勝負は、詰る所、自分との戦いだ。
三浦さんは、何時何処でも、自分と戦っておられるに違いない。
★2012年2月9日付毎日新聞朝刊将棋欄
http://mainichi.jp/enta/shougi/