2011年11月11日
【観戦記】「第70期名人戦A級順位戦〔第19局の6▲久保利明王将△渡辺明竜王〕渡辺、会心の勝利」加藤昌彦さん
渡辺(明竜王)の圧勝であった。
(中略)
一方、敗れた久保(利明王将)は痛い4連敗になってしまった。
次の相手は屋敷伸之九段となっている。
順位が最下位の屋敷だが、白星は久保を上回っているので、残留争いを目指す久保は直接対決で勝って少しでも近づきたい気持ちだろう。
(中略)
久保は大きな一番に敗れたとき、「鈍感力ですよ」という。
過去のことはクヨクヨせずに忘れて、新しい気持ちで戦う意味だ。
今こそ鈍感力を思い出して、全力で巻き返してほしい。
成る程だ。
過去の失敗をクヨクヨせずスッキリ忘れるには、羽生善治さんのように、原因を正確に究明、理解し、失敗をしかと総括、得心するのが最善だと思っていたが、加えて、久保利明さんの如く失敗の経験に鈍感になるのが、より最善に違いない。
では、どうすれば、私たちは、失敗の経験に鈍感になれるのか。
失敗の経験に過度かつ持続的に敏感になるのを防げるのか。
一つは、「好機を稀少と考えないこと」ではないか。
私たちが失敗の経験に過度かつ持続的に敏感になりがちなのは、好機を、詰る所は、好機の成就により得られたであろう利益を、逸失した感があるからではないか。
そして、それは、そもそも好機を、「稀少で、なかなか得られないモノ」と無意識の内に考えているからではないか。
「ツイている」とか「好調」の時は、必ずしも好機の絶対量が多いわけではない。
「ツイていない」とか「不調」の時にはスルーしてしまう、悲観してしまうことも、好機と認識、楽観できるだけだ。
鈍感力は、「ピンチはチャンス」と認識、楽観できる思考習性を体得した賜物に違いない。
★2011年11月11日付毎日新聞朝刊将棋欄
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