2011年09月13日
【観戦記】「第70期名人戦A級順位戦〔第9局の4▲丸山忠久九段△羽生善治王座〕グレーゾーンの戦い」関浩さん
夜戦に入り、丸山(忠久九段)が収熱用のシートを使う頻度が増した。
額と後頭部への2枚張り。
思いのほか粘着力が強いことに感心する。
丸山は「考えていると頭が熱くなる」という。
さっそく控室で「まるでパソコンのようだ」と冗談のタネにさせてもらったが、その一方で、現代棋士を取り巻く過酷な環境を思った。
日進月歩の定跡を管理する能力だけではない。
詰むや詰まざるやの算出において、とうにコンピューターは人知を超えている。
機械が確実に性能を増してはいても、一流のプロフェッショナルであるならば、簡単に白旗を揚げるわけにはいかない。
むしろ、自己を最強のマシンと化す傾向が強まっているのではないか。
近ごろのなりふり構わぬ丸山の戦いぶりには、滑稽さを突き抜け、現代棋士に悲壮感が漂う。
(中略)
この打ち合いは、どちらが得をしたのか。
羽生(善治二冠)は「△3一歩ではつらい」と語り、丸山は「(本譜の)▲6五歩では自信がない」と嘆いた。
要するに、はっきりしないのだ。
そして、このグレーゾーンでの戦い方こそ、コンピュターが人の感性に及ばない領域なのである。
とりわけ競争を旨とする資本主義社会では、人は、自己を最強のマシン化する努力を免れない。
成功を遂げたビジネスマン、(更なる)成功を希求しているビジネスマンは、日々この努力を励行している。
なので、不遜だが、丸山忠久九段、ならびに、現代棋士がこの努力に苦慮なさっているのは、表層的には同情するが、根源的には当然かつ自然に思う。
丸山九段のこのご努力は「冷えピタ事件(?w)」として棋士とファンの間では周知だが、私がこの事件を知る度痛感するのは、冷えピタを必要とする頭の熱さをいまだ経験していない自分の体たらくさだ。
私が、いまだ成功道半ばなのは、冷えピタに頼らなければいけない程頭を使っていない、思考していないからに他ならない。
★2011年9月13日付毎日新聞朝刊将棋欄
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