2012年03月
2012年03月16日
【観戦記】「第70期名人戦A級順位戦〔第41局の2▲羽生善治王位△郷田真隆九段〕自由度増した郷田」椎名龍一さん
最近の郷田(真隆九段)が変わったと思うのは筆者だけではないだろう。
以前の郷田は将棋の真理を追い求める求道派的な部分が多かったように思えるが、最近ではいい意味での遊びが増えてきているように思える。
郷田自身、「将棋世界」誌に掲載された対談記事で「もっと自由になる。これからは自分が振り飛車をやっても何の違和感もない」という発言をしており、本人が課していた将棋の真理を追い求める指し手から解法されつつある状態なのだろう。
これまでストレートだけで打者を抑え込もうしていた投手が、カーブ、スライダー、フォーク、チェンジアップなどの変化球と緩急を織り交ぜてきたようなイメージで、おそらく対戦相手にとっては新しい郷田の方により脅威を感じるのではないだろうか。
いろいろな球種を投げることによって郷田の投げる速球はより威力を増すだろう。
野球であれ、将棋であれ、真理を追及する球種はストレートに限らないはずだ。
大事なことは真理に辿り着くことであり、球種が変化球でも問題は無いのではないか。
インターネットがネットワークシステムとして優れているのは、高確率かつ低コストで目的地に辿り着ける(アクセスできる)からだ。
そして、その主因の一つは、「情報のデジタル化」と「経路制御(Routing)」の妙だ。
郷田真隆九段がこの度持ち球に変化球をお加えになったのは、経路制御の妙を会得し、将棋の真理へまた一歩近づかれた証左ではないか。
★2012年3月16日付毎日新聞朝刊将棋欄
http://mainichi.jp/enta/shougi/
2012年03月13日
【自戦記】「第70期名人戦B級1組順位戦[第2譜▲松尾歩七段△橋本崇載七段]鬼のすみか」橋本崇載さん
B級1組は「鬼のすみか」と呼ばれ、実力者ぞろいの激戦区といわれる。
今年度は特に強力なメンバーがそろって、だれが降級してもおかしくないと思った。
まあ強い相手としか当たらないので、勝敗よりもむしろ稽古をつけてもらうつもりで指そうと思っていた。
いかなる分野であれ、強敵者揃いの激戦区を制するには、実力の最善発揮と緊張の最善緩和が不可欠だ。
ゆえに、勝敗という結果に加え、強敵者との激戦という稀少かつ貴重なプロセスにも関心と意義を見出すことが有効だ。
橋本崇載七段が思われた「むしろ稽古をつけてもらうつもり」というのは、本局の勝利を大きく後押ししたに違いない。
「好バランスで結果とプロセスの両方に関心と意義を見出し続けられること」。
いかなる分野であれ、実力者と勝利者は紙一重であり、本習性の自助度が両者を分かつに違いない。
★2012年3月12日付毎日新聞夕刊将棋欄
http://mainichi.jp/enta/shougi/