【医療】「60歳うつ」秋田巌さん【ROUBAIX SL4】「落第脱出のヒント、降臨!」202308024荒川サイクリングロード修行結果

2023年08月23日

【人間】「習慣と脳の科学-どうしても変えられないのはどうしてか」ラッセル・A・ポルドラックさん

P147
第5章 自制心ー人間の最大の力?

意志力の盛衰

「なぜライフスタイルを改善できないのか」と尋ねられたとき、人々のもっとも一般的な答えは「意志力が弱いから」である。意志力についてのこうした考えは、医療従事者にまで及んでいる。ある研究によれば、体重過多や肥満の人を担当している栄養士には、体重の問題の主な原因は意志力の欠如だと考え、個々の患者の意志力がどの程度かを判断し、それに合わせて個別にアドバイスをしているケースがあるという。一般的に、人は「意志力」という言葉から、欲しいものを我慢し(たとえば、デザートのおかわりを断る)、面倒だがやらなければならないことをする(たとえば、ジムに行く)といった自制心のことを思い浮かべる。長いあいだ、「意志力の強い人」とは、タバコを吸いたい気持ちを抑える、ケーキではなくニンジンを選ぶなど、目下の衝動を断つのが上手な人だと思われてきた。しかし、この考え方が誤りであることを示す研究結果が増えている。

前の節では、自らの行動を抑制する能力を測ることを目的としたストップシグナル課題を紹介した。もし、この種の抑制が意志力に不可欠であるならば、ある人が目下の衝動を止める能力は、本章の前半で取り上げたような自記式調査法で測定される自制心の測定値と関係があると予想される。筆者らは最近の研究で500人以上の反応抑制能力と自制心を測定した。ストップシグナル反応時間(被験者が行動を停止するまでの時間を数値化したもの)とこの章の最初に挙げたような質問に基づいて算出した自制心の測定値の相関を計算したところ、ほぼ無関係であることがわかった。また筆者らは、多くの異なる測定方法について、実行制御を測定する課題と自制心を測定する調査のあいだにほとんど関係がないことを明らかにした。他の研究者による多くの研究も同様の結果を得ている。この関連性のなさから、これらの基本的な抑制機能の違いが、人々の自制心の違いの原因になっているとは考えにくい。

自制心が強いと思われる人は衝動を抑えるのが得意なのではなく、そもそも自制心を働かせる必要性を回避することが得意であるようだ。そのことを示したのが、欲求、目標、自制心の関係を「経験サンプリング法」と呼ばれる方法で調べたウィルヘルム・ホフマンらの研究だ。この研究では、被験者208人にブラックベリーの端末を配布した(この研究は2011年頃に実施された)。この端末には一日を通じて数時間ごとに合図が送られるので、被験者はその度にその時点で経験していることを報告しなければならない。被験者は、その時点で欲求を感じているか、あるいは過去30分以内に欲求を感じたかどうかを報告する。欲求を感じた場合は、その種類を報告し、その欲求の強さを「1」(まったく感じない)から「7」(抵抗できない)までの尺度で評価する。さらに、欲求に抵抗しようとしたかどうか、その欲求と自らの目標とのあいだにどの程度の葛藤を感じたかなど、さまざまな質問に答える。被験者は、この章で前述したような自制心に関する調査項目にも回答した。

ホフマンはすべてのデータがそろったところで、被験者が報告した自制心のレベルと経験サンプリングで記録されたさまざまな側面との関係を調べた。もし自制心の役割が「目標を達成するために欲求を抑えること」であるならば、自制心の強い人ほど目標との葛藤を多く経験し、頻繁に衝動に抗っているはずだ、しかし、結果はまったく逆であった。自制心の高い人は低い人に比べて葛藤が少なく、欲求に抗う回数も少なかったのである。さらに、自制心の高い人は概して欲求を経験する頻度が少なく、感じている欲求の程度も弱かった。

ペンシルバニア大学のブライアン・ガラとアンジェラ・ダックワースによる研究は、自制心が高い人ほど、逆説的に自制心を使う必要性が低いように見える理由の一つを示している。それは、これらの人々は良い習慣を身につけるのが得意であるということだ。ガラとダックワースはこのパラドックスを検証するために、まず大勢の人々の日々の習慣(間食や運動など)と自制心のレベルを調査した。予想通り、自制心の高い人ほど運動量が多く、健康的な間食を摂っていることがわかった。だが興味深いのは、自制心の高い人は運動や健康的な食事をより習慣的に行っていたと報告していたことだった。つまり、何も考えずに自動的にそれを行っていたのだ。ガラとダックワースは、自制心の効果は良い習慣によってもたらされやすいことも発見したーー自制心が高いと良い習慣をつくりやすく、結果として、努力を伴う自制心を発揮する必要性も減るからだ。同様の結果は、学業成績と学習習慣に関するいくつかの研究でも見られた。だがおそらくもっとも興味深い発見は、被験者132人が五日間の集中的な瞑想合宿に参加する様子を追跡調査した研究から得られたものだ。ガラとダックワースは合宿の開始前に被験者の自制心を測定し、三ヶ月後に瞑想を習慣化していたかどうかを追跡調査した。その結果、自制心が高い人ほど合宿後に瞑想の習慣を身につけており、瞑想を自動的に行えるようになったと感じていたことがわかった。

この調査は、意志力は期待されるほど大きな働きをしていないことを示している。次章では、特定の習慣を変えるのがきわめて難しい理由について考察する。また、意志力が人々の直感的な考えに反して習慣の形成においてたいした役割を果たしていないように見えることについても説明しよう。

「自制心の強い人が得意なのは、『衝動を抑制すること』ではなく『自制心の試練を最小化すること』、挙句『衝動の発生余地を最小化すべく、良い習慣の創造に絶えず貪欲であること』」。
ラッセル・A・ポルドラックさんの自制心論は尤もだが、自制心の強い人が本当に貪欲なのは「良い習慣の『創造』」以上に、「良い習慣の『維持』」ではないか。
というのも、良い習慣ほど絶えず反故、廃案のリスクに晒されているからである。
結局、習慣は目的を達成する手段である。
現代は「スイーツは別腹」とか「自分へのご褒美」等々(苦笑)、不合理かつ身勝手極まりない言い訳がまかり通っている。
自制心の強い人は目的と手段を合理的に策定でき、かつ、達成にすべからく貪欲である人、更には、挫折を許せない人ではないか。



習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか
ラッセル・A・ポルドラック (原著), 神谷之康 (監修), 児島修 (翻訳)
みすず書房
2023-02-24




kimio_memo at 07:33│Comments(0) 書籍 

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